『楡家の人びと』

北杜夫
トマス・マンを読むなら、楡家の人びと、と、勧められたことがある。
作者は、マンのどこを学んだのだろうか。

- 戯画化された人物像
- 史実と(虚構の)家族史の交差

しかしまた、

- 自然描写
- 病気、死の描写
- 戦争体験の記述(城木という登場人物を設定してまでして、戦争を書き込んでいる。ほとんど戯画化されることがないという点で例外的)

は、マンにはない、作者の圧倒的な力量を示す部分でもある。

そして、『ブッテンブローク』の芸術家モチーフは、おそらく意識的に、無視、あるいは、縮小されている(徹吉の学者気質がそれに当たるか)。さらに、後年のマンの作品に現れる、作中の芸術論、作品化された小説論が欠けているのは、ひょっとすると、日本文学の問題なのかもしれない。

徹吉の『精神医学史』で、カタカナ書きの固有名詞が列挙されているのは、修辞的な脱線だろうとは思う。しかし、気になる(第二部、2章、4章、8章)。やはり18世紀、フランス、ピネル、なのか。

斎藤茂吉に関しては、朝日新聞掲載の戦争詠二首が挿入されている。