昭和維新試論

下村湖人次郎物語』の最後に、地方の青年を集めて、民主主義的な共同生活を実践する塾が出てくる。ユートピアにしては、妙な熱気が漂っていると思ったものだが、それは、主人公の性格によるものではないらしい。

橋川文三によれば、日露戦争以降、若手官僚が地方の活性化を目指し(地方改良運動)、各地で青年会を立ち上げた。田沢義鋪(よしはる)が、帝大のエリートではなく、地方の青年たちを対象にした政治教育に力を入れたのも、この流れなのだ、と。

しかしまた、こうしたリベラルな運動に呼応するかのように、平沼騏一郎北一輝、高畠素之といった右翼運動家たちが現れる。両者に共通しているのは、現状に対する異様なほどの危惧の念と、行き詰まりの打開に向けての情熱である。