丸山眞男の敗北

伊東祐吏 2016(講談社選書メチエ
これも後半「開国」のあたりから、話しが面白くなる。
外来のものを受け入れる「古層」があるはずだが、それは「層」というほどの実体ではない。それを表すために、丸山は音楽用語を借用し、「執拗低音(バッソ・オスティナート)」と言う。「通奏低音バッソ・コンティヌオ)」とは違って、高音メロディに合わせて、低音も微妙に変化していくのだ、と。
戦中の大学に対する思想統制に対して、東大法学部は最後の砦だったという。「研究室全体がいわば密室のようになり、外に吹き荒れる嵐の中で互いに身を寄せ合っているという状態」をどう考えるのか。追い詰められていたことは間違いない。そういう場所があっただけでも幸福だったのではないか、とつい考えてしまうが、それは戦争を知らない人間の脳天気な想像にすぎないのかもしれない。
丸山の思想は、激しい逆風があればこそ高く上がる「凧」に例えられている。そういえば、ベンヤミンの新しい天使も、猛烈な風の中、羽を広げたまま後ろ向きに吹き飛ばされていたのだった。