古井由吉『雛の春』
たしか、日も暮れかけて職人たちの気分もだらけているのに、半端な仕事がまだ残っている時に、遊び戯れるままにまかせて働かせると、かえってはかどるということだったか。
という「遊び仕事」の説明に続いて
春の前触れの、ほのかに霞む日の暮れを連想させる。
さらに、次のページには
遊び仕事とは、今から思うに、それでもだんだんに済んでいくという心である。じつは何事も済まないのだが、とにかく一日ずつ、そのつど仕舞いにはなる。
まあ、この程度のことなら、私でも書くことはできそうではあるが、しかし、
しかし忙中の閑に棹差せばその皺寄せで閑中の忙も避けられず、日数の経つのが速いことに、あるいは妙に遅いことに苦しむ。
なるほど。忙しいときに休んでいないと、休んでいるときにも忙しくなる。
「その皺寄せ」? 休む修練をしていないがために、ということか。
忙と閑のリズムが狂うと、時間感覚が狂ってくる。
時間の流れの不順は心身の内壁を傷つける。