2022-01-01から1年間の記事一覧

たそかれの萩の葉風にこの比(ごろ)のとはぬならひをうち忘れつゝ

式子内親王夕闇に沈む頃、萩の葉が風でさわさわと鳴るのを耳にして、瞬間、恋人が来たのかと錯覚した。やんごとなき姫君ならば、いかにもありそうなできごとではある。しかし、恋人のことを思い出した、ではなく、恋人が来なくなっていたことを忘れた、と詠…

「幸福」授業

ドイツ ブラウンシュヴァイク工科大学の教育心理学の研究プロジェクトの一環として、16の小学校で「幸福」授業が実施されている (die Zeit: 29. Dez. 2022)。テーマは、自分自身の調子をよりよくし、危機をよりよいやり方で克服できるようにすること。子ども…

地には平和

ルカ 2. 14 いと高き所には栄光、神にあれ地には平和、御心に適う人にあれ。 羊飼いたちの頭上高く、突然出現した「天の大軍」は、戦うのではなく、天使とともに神を讃美したのだった。「地には平和」という一言が最近、気になって、もう一度読み返してみた…

AI によって向き合う

23日付け朝日新聞 大阪版文化欄さすが羽生善治、という記事だった。 昔から、農家の方などと比べると棋士は絶対的な存在ではないと思っていました それは文学者も同じ。ここにつづく「が、」の後がすばらしい。 が、本来むきあわなければいかなかったことをA…

ギリシア芸術模倣論

ヴィンケルマン(田邊玲子 訳)岩波文庫ヴィンケルマンが献呈しているヴィルヘルム・アウグスト二世は、フェルメール『手紙を読む女』を購入した、あのザクセン選帝侯なのかな。

旅する練習

乗代雄介この物語後半には、ほぼ同じルートを辿っているらしい二つの旅が重ねて書かれている。コロナ以前と、コロナ以後の徒歩旅行。旅の最後に、本を返しに行く姪の足取りは、こんな風に書かれている。 一人待っている私の方は、はっきりした目的というもの…

ユリイカ 1972年10月号

特集リルケ 長谷川四郎、川村二郎、秋山駿の鼎談がおもしろい。三人の関心が少しずつズレているのだが、かまわず話しが進んでいて、それでなんとなくまとまっているようにも思える。 秋山:あの人は薔薇の棘にさされて死んだなんて、ふざけるなとぼくは思っ…

P(エル)

アーラのしゃべり方でマルティンがことのほか気に入っていたのは、「P}の文字を発音するときのしっとりとした声の出し方で、まるでひとつの文字じゃなくて長い柱廊がつづき、しかもそれが水面にでも映っているみたいなのだ。 (ナボコフ『偉業』) こんな声…

ナボコフ『偉業』

(貝澤哉 訳)光文社古典文庫 主人公マルティンは、作者と同じように、ケンブリッジ大学に入学するのだが、「長いあいだ専攻する学問分野を決められずにいた」。 人間の思考ってものは、星に満たされた宇宙という名の空中ブランコに乗って前へ後ろへすばやく…

Jean-Luc Godard

アレクサンダー・クルーゲが通訳を介して、ゴダールにインタヴュしている。年代不明。 https://www.youtube.com/watch?v=rAr__FRmSQw ドイツロマン派の作品を読んでいる。知られざる作家に多くを負っている。ジャン・パウル、ノヴァーリス・・・

パパイヤ・ママイヤ

乗代雄介 全面黄色のカバーに空色の文字。帯には、「王様のブランチ」で紹介され大反響!、と。 いや、ちょっとどうかな、と思ったが、やはり面白かった。登場人物は、女の子も、男の子も、ホームレスも、みなアタマのいい乗代くん。サリンジャーの小説と同…

ベルリンのナボコフ

『偉業』(貝澤哉 訳 光文社文庫)に付けられた年表によれば、ナボコフは、1919年、クリミアを去って、ケンブリッジ大学に入学。しかし、20年代は、ベルリンで暮らしている。『ディフェンス』も『絶望』もベルリンが舞台である。しかし、ロシア語=英語作家…

エミリー・ブロンデ

E・T・A ホフマンの作品を読んでいたらしい。 (モーム『世界の十大小説』)

ディフェンス

V・ナボコフ 若島正訳 ナボコフのテクストにどんなトリックが仕掛けられているのか。正直なところ、さっぱり解らない。ルージンの人生は、どのようなコンビネーションを構成しているのか。ロリータをハンバート・ハンバートから奪った男が小説のどこで登場し…

朝日新聞大阪版

今朝の一面下段の書籍広告は、子ども向け、大人向け、ウクライナ本が並んでいた。

Eduard Berend, 1883-1973

ジャン・パウル全集歴史的批判版を編集したベーレント はユダヤ人で、一時、ザクセンハウゼンに拘束されていた。 1957年、亡命先のアメリカからドイツに帰国したのは、ジャン・パウルのテクスト校訂作業のためだった。マールバハ文学館の屋根裏部屋が仕事部…

亜免

白秋はこれを、アーメン、と読ませる。 世界一面ニ白金ラジウムノ地雷を爆発(ハジカ)セタマへ、亜免。 (白金交感)

朝日新聞朝刊

今日の将棋欄指了図は、9二から2九へ斜めに駒が並んでいる。F クンが飛車を動かさなかったのは、この並びのためではなかったのか。昨日朝刊、多和田葉子「白鶴亮翅」は、冬になって、雪が積もって、なんだか唐突な「完」だった。

青木保 始原論と終末論

海 1970. 6. 歴史の終わりに救済があるという意識は、普遍ではない。旅から旅へ遍歴を余儀なくされた民族が未来に託した希望、社会的抑圧に苦しむ人びとの希望が、終末論という形になる。革命と終末論の関連は判った。それでは、非歴史的循環論をとった場合…

ガリレオ裁判 ――400年後の真実

田中一郎 岩波新書 いろいろなことが判った- ガリレオ裁判は、1633年、30年戦争の只中で行われた- ローマ教皇ウルバヌス8世は、当時の天文学を理解していた- ガリレオの地位「トスカナ大公付き主席数学者兼哲学者」には、相当の権威があった- ガリレオは、…

古風な舞曲とアリア

レスピーギ 第一組曲の二は、ヴィンツェンツォ・ガリレイのガリアルダという曲に基づいて作られたらしい。

意見広告

「この核兵器で、誰が何を抑止するというの?」の茶色広告は、バーチャル高校野球の青色広告とともに、朝日新聞朝刊の圧巻だった。だが、一面下方、折々のことばと天声人語に挟まれた小さな広報「自由に帰れない故郷・・・」も、目立っていた。白黒ながら場所が…

ロリータ

ナボコフ(若島正 訳) 舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩目にそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。 この呪文のような言葉で、想像の世界が切り拓かれる。ハンバートにとっては、牢獄のような妄想だが、作者と何人かの幸福な読者にとっては、現実からの解放にもな…

フェルメールに敬礼

『窓辺で手紙を読む女』を観た。窓から差し込んでいる光が眩しい。ガラスに女の顔が写っている。窓の縁は青色。デルフトにそんな家があったような気がしてきた。キューピットはなくもながであったが、これだけ色鮮やかにみえるのは、修復のおかげか、気のせ…

テヘランでロリータを読む

アザール・ナフィーシー(市川恵里 訳)河出文庫ナボコフを読むことにどんな意味があるのか。イスラム革命まっただなかで、なぜこの女性たちは『ロリータ』を読むのか。ハンバートの滑稽な物語に隠された残忍さが、テヘランの状況とパラレルになっているから…

Claudio Monteverdi: Vespro della Beata Vergine

Collegium Vocale Gent / Philippe Herreweghe Sancta Maria, ora pro nobis が繰り返されているだけなのだが、聴いているうちに、楽器も同じように歌っているような気がしてくる。いや。たしかに、そう歌っている。

乗代雄介 最高の任務

自分を書くことで自分に書かれる、自分が誰かわからない者だけが、筆のすべりに露出した何かに目をとめ、自分を突き動かしている切実なものに気付くのだ。 自分のことを書かなくても、そうなる。

クチナシ

今日の花はクチナシ。花言葉は「私は幸せすぎる」。 朝ラジオをつけたら、こんな言葉が聞こえてきた。再び、目を覚ますと、ルイージ・ロッシのアリアを歌っている。 これはいったいどんな一日になることだろう、と思ったものだが、いつもと変わらぬ一日だっ…

E. T. A. Hoffmann

6月25日が200年忌にあたるという。昨夜、片山杜秀氏の話がラジオで流れていた。おもしろかったのは、シューマンとの関係。シューマンのクライスレリアーナは、ホフマンのテクストに登場するクライスラーの架空の音楽を、ピアノ曲として再現しようとしたので…

トマス・マン「ドイツとドイツ人」

1945年5月,ナチスドイツが無条件降伏した直後の講演だという。強制収容所が次々と開放され、ナチスの暴力が世界中から非難されているさなかである。非政治的と言われるマンではあるが、彼には、彼の闘いがあった。 今、ロシア人知識人にすべきことがあるとす…