ユリイカ 1972年10月号

特集リルケ

長谷川四郎、川村二郎、秋山駿の鼎談がおもしろい。三人の関心が少しずつズレているのだが、かまわず話しが進んでいて、それでなんとなくまとまっているようにも思える。

秋山:あの人は薔薇の棘にさされて死んだなんて、ふざけるなとぼくは思った。
川村:しかしあれは白血病でしょ。死ぬときは非常に醜くなって死ぬらしいですよ。
長谷川:そう、ぼくは、そういう病気にかかって、それに耐えてね、リルケはちゃんと死んだんだと思うんだ。そういう力は持っていると思うよ。まあ、薔薇の棘に刺されて死んだとしておいた方がいいと思う。

 

 

長谷川四郎は、ブレヒトを高く評価しているから、古い世界にこだわるリルケを全面的に受け入れることはできない。けれども、リルケのいくつかの詩、それから『マルテの手記』は、やはり認めないわけにはいかない。いくつかの詩がいいなら、それでいい、と。
秋山駿は、リルケの世界に近づけない、リルケがどんな風に生きているのか、見当がつかない、と言う。自分に家がない、という感覚に違和感をもつのは当然として、幼年時代の物語に民話が出てくることにそれほど拘るのか。
川村二郎は、対象のない大いなる愛、というテーマが気に入らない。女にそれを押しつけるのは、無責任だ、と。しかし、愛の対象を超えるようなやり方で、愛のある部分を諦めるということもあるのではないか。