2015-01-01から1年間の記事一覧

三輪太郎『憂国者たち』

群像九月号 三島由紀夫の『豊穣の海』は、いまだ読んでいない(絶対に読め、と言われたにもかかわらず)ので、ただの当てずっぽうだが、ひょっとすると、この物語はその第五部にあたるのかもしれない。それにしても、この大量難民の時代に、「本物の天皇」や…

ボディ・クリティシズム

バーバラ・M・スタフォード(高山宏 訳) 神経系モデルの人間学が、解剖学モデルに対立するという見方がおもしろいと思った。リヒテンベルクの Pathognomie の表面性も、この繋がりで積極的な意味を帯びてくる。ラファータの観相学にある神学的な深みを用心…

高橋源一郎『「あの戦争」から「この戦争」へ』 と 荒川洋治『文学の空気のあるところ』

二人とも、社会の中に入っていって、文学を探している。 高橋氏の方が、より徹底的なのは、たぶん、文学の力をもうあまり信じていないからだろう。にもかかわらず、文学があるとすれば、こんな風なんだろうと思わせるようなところがある。いろいろなことを知…

C. A. F. Kluge: Versuch einer Darstellung des animalischen Magnetismus, als Heilmittel, Wien 1815

1800年前後のヴィーンは、違法出版が公然と行われ、検閲も厳しかった。オン・デマンドで簡単にコピーを取れる時代になったが、専門家の手が入っていないだけに注意が必要である。Kluge 正本は、Berlin 1811 Johann Christian Reil, Johann Christoph Hof…

神々のたそがれ

アレクセイ・ゲルマン監督たそがれ、というより、いない、という方が近いだろう。神のいない世界には、時間的にも空間的にも、およそパースペクティヴがない。切れ切れの接写で構成される場面、反復される物語。 文明化を知らない世界。牛や豚と変わらない人…

文体

後藤明生、坂上弘、高井有一、古井由吉 編集 1978年の創刊号から1980年最終号まで、季刊全12冊を一冊220円で購入。天下茶屋の喫茶店で、最終号掲載の川村二郎の神社の話を読んだ。神明造とか、権現造とかいう様式論が本題なのだろうが、こちらの勉強不足で…

ジャン・パウル『抜き書き帖』

草稿資料がデジタル化された。 Jean-Paul-Portal: Projektdetails 『抜き書き帖』を自宅で読むことができるようになるとは、研究を始めた頃には夢にも思わなかった。著作権切れの資料も簡単にネット経由で入手することができる。 Heidelbergische Jahrbueche…

オールド・テロリスト

村上龍 小説という形式を使って、近年のテロリズムを内側から描いてみせた傑作。 文藝春秋連載は、昨年夏に終わっているはずだが、いまだ単行本がでないのは、どういうわけだろう。 >>> いや、イスラム国関連の一連のテロは、端的な人間憎悪という点で、『オ…

フロイト講義<死の欲動>を読む

小林敏明著『快原理の彼岸』読解。「死の欲動」という概念がどのような思考過程を経て、形成されたのかが丁寧に追跡されている。講演記録のようにみえるが、そうではないらしい。あとがきに、菅谷規矩雄の話が出てくる。名古屋にいた頃は、緑区鳴海の団地に…

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと

ヤールズ・ユウ(円城塔 訳)自伝を書いている私が始まりであり、終わりであるという円環構造に、ドッペルゲンガー=モチーフが重ねられている。いかにもジャン・パウル的な構想だが、2010年に発表された、アジア系アメリカ人のSF小説なのだ。だが、よく…