ディフェンス

V・ナボコフ 若島正

ナボコフのテクストにどんなトリックが仕掛けられているのか。正直なところ、さっぱり解らない。ルージンの人生は、どのようなコンビネーションを構成しているのか。ロリータをハンバート・ハンバートから奪った男が小説のどこで登場したのか。
小説を読み返していないので、解らない。
にもかかわらず、場面の切り取り方が斬新で、圧倒されてしまう。

ルージンは自分の手を見つめ、指先をひろげてからまた閉じた。ニコチンで黄褐色に汚れた爪は付け根がぎざぎざになっているし、指の関節には太い小さな溝が走り、さらにその下は毛深い。

毛深い、というのはルージン本人の目に映った有様なのだろうか。

乳白色で見た目にも柔らかく、爪も短くきれいに切ってある、テーブルの上に置かれた彼女の手のそばに、彼は自分の手を置いた。

これが「まえがき」に書かれているハンドバッグの場面なのだった。

教科書にはかかれていないことだらけの本だった。平行線の謎を説明した例図で、傾いた一本の直線が、輻のように回転しながら、もう一本の垂直な直線に沿ってすべっていくのを想像してみると、愉悦と同時に恐怖も味わった。

抜き書きを始めるときりがない。