2022-01-01から1年間の記事一覧

Jean Pauls Verhältnis zu Rousseau: nach den Haupt-Romanen dargestellt (1924)

ルソーの人間像は、国家、社会、職業とは無関係に、ただ自然法則にしたがって形成される。それは、人間以前の動物的段階への転落であり、病的で、疲れた状態の産物である。しかしまた、この人間像が、ドイツの旧体制の桎梏を打ち砕く原動力になった、と。

ミレニアム

坪内 祐三『古くさいぞ私は』が出たのは、2000年。この時点で、オールドタイプを自認していたところに、先見の明があったのかもしれない。コンピュータシステムに誤作動が生じると騒がれたのは、その前年だった。この頃には、パーソナルコンピュータがネット…

20世紀的知性

「オールドタイプ」は、別の箇所(上野『思想家の自伝を読む』62ページ)では、「20世紀的知性」のフリガナになっている。今の若い人たちは、古典を読まなくなった。古典を通して、異質なものへ自分を開いていくことができなくなっている、とオールドタイプ…

オールドタイプ

構造主義の思想がよく読まれていた時代、「自分」や「自己表現」に夢中になることは、どちらかと言えば文化的には恥ずかしくみっともないこと、という気分が一般的にあった。(上野俊哉『思想家の自伝を読む』平凡社新書 2010) こういう感覚は、「80年代的…

喫茶店

診察まで、喫茶店で時間を潰すことにした。 上本町は何度も往き来しているが、一本裏を歩くのは久しぶり。何年か前まで、ちょくちょく出かけに寄っていた喫茶店は、しかし、もう仏具店になっていた。あそこでは『週刊SPA!』の福田和也x坪内祐三対談を読んで…

Bayreuth

バイロイト、といっても、ヴァグナーではなく、ジャン・パウル協会。5月21日に、3年ぶりの総会が開催されるとの便りが届いた。 2025年は、没後200年。3年後にはドイツへ行こう。K先生は、卒中で倒れても、ブコビナまで出かけたのだった。

メルク修道院図書館

伊東章氏による「ドイツのトップニュース 22.04.10」によれば、メルク修道院図書館の改修工事が始まったらしい。ヴィーンからドナウ川を下って?(渡って?)いったように記憶していたが、あらためて地図を見れば、メルク修道院はヴィーンと陸続きである。メ…

ガストン・バシュラール『科学的精神の形成』

及川馥訳 平凡社ライブラリー 社会科学、人文科学から見ると、18世紀啓蒙主義は、自然科学的な世界観の産物だった。ところが、自然科学者からすれば、前科学的なイメージに覆われていた時代、ということになるらしい。

あるいはジョッキ一杯の葡萄酒や美女を所望するといった

中世の写本制作は、教会関係者、学生や書記官の副業だっただけではない。債務者監獄の囚人もこの作業に携わっていた。私用のために本を作成する蔵書家もいた。写本の最後には、たんに、explicit と宣言するだけではなく、さまざまな署名が書き込まれていると…

ヴォルフ・レペニース:科学と文学の戦い

『理性の夢 近代における人文・自然・社会科学の危機』(公論社 1992)所収この一節で問題になっているのは、文学と科学ではない。社会学が問題なのである。この分野でもまた、自然科学をモデルとする18世紀啓蒙主義との闘いがあった。しかし、もう一方で、…

朝日新聞将棋欄

C級2組順位戦10回戦。対局者である山本博志4段の自戦記が連載されている。語り手が一人称になると、盤面の見え方も少しちがってくるような気がする。

世界文学

イギリスの文芸評論家トマス・カーライルが、1825年にシラーの伝記を出版する。1830年、それが今度は、ドイツ語に翻訳される。その独訳本には、ゲーテの序文が付けられていて、その末尾に、付け足しのように、「世界文学」が語られている。執筆は1829年、ゲ…

バーリン(佐々木毅 訳)「自然科学と人文学の分裂」

岩波文庫『マキアヴェッリの独創性』所収。 バーリンは、文系/理系の分岐がヴィーコ (Giambattista Vico) のあたりで生じたと考えている。ヴィーコの歴史観が、どういう意味で人文学なのか。ヴィーコはアウグスティヌスに遡り、人間が知りうるのは、人間に…

石原あえか『科学する詩人ゲーテ』慶応義塾大学出版

一読、一般読者向けに書かれた入門書のようだが、実は、かなりの研究を踏まえている。それだけに、科学からポエジーの一方的な影響が気になった。ゲーテの反ニュートンは、結局、文学的なイメージでしかないのだろうか。霧に浮かぶ白虹を「白髪になっても/…

フルトヴェングラー

丸山眞男は、フルトヴェングラーがギリギリまでドイツに留まったのは、この指揮者が「自分の芸術がドイツの国土との結びつきを離れてはありえないという自覚」持っていたから、と言う。フルトヴェングラーは、ユダヤ系の芸術家のように、コスモポリタンでは…

radio garden

あれこれ遊んでいるうちに気づいたこと。概して南方の音楽、アフリカ、中東、インドの方が、性に合っている。東アジアはどうも苦手。

das fünfte Rad am Wagen sein

直訳すれば「5番目の車輪になる」。すなわち、「余分な、招かざる人、事である」。なるほど。たしかにおもしろいイメージではある。けれども、それを小説に書き込むならば、外国語としての違和感を残すような形にした方がいいのでは。新聞小説とはいえ、ただ…

丸山眞男 音楽の対話

ベートーベンは西洋音楽史の頂点に立つ。爆発的なパトスを古典的な合理的形式の枠組みで響かせた。現代音楽は、調性が破壊されているがゆえに、評価しない。ワーグナーの楽劇は、神話的世界を舞台にしているところに普遍性がある。現代社会を舞台にする演出…

大地と憂愁

19世紀ロシアの、とりわけ知識人たちは、西欧的な知識や教養を身につけつつも、自らの内面に横たわる「ロシア的なもの」を模索し続けていた。私もそうだが、少し以前の日本の青年たちは、たいてい19世紀ロシアの偉大な作家や音楽家に魅了されていたもの…

radio garden

新聞で紹介されていたサイトを覗いてみた。世界各国の音楽放送局にリンクしているだけなのだが、地図上で選択するところがおもしろい。 ドイツ、フランケン地方にも小さな点がちらばっている。ニュルンベルク、エアランゲン、バンベルク、ペグニッツ、バイロ…

そしてそれらの断片は、小島のように

またたとえ読む本をくまなく記憶しているつもりでも、じつは本のいくつかの断片しか記憶していない。そしてそれらの断片は、小島のように、忘却という名の大海に浮かんでいるのである。(ピエール・バイヤール 大浦康介訳 読んでいない本について堂々と語る…

バッハ:平均律クラヴィア曲集第一集

リヒテルが70年に録音したCDがあったので、ロ短調プレリュードを聴き直してみた。こうやって一曲だけ聴いてみると、たしかにすばらしい。全曲聴くと疲れるのはどうしてなのか。

さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ

フィリップ・マーロウ(『ロング・グッドバイ』村上春樹訳)の名台詞だが、フランス語は、 Partir, c’est mourir un peu. Mais mourir, c’est partir beaucoup. 死ぬこと、それはたくさんさよならを言うことだ、と続く。 partir は、もちろん、「立ち去る」…

人目につかぬ駅の片隅に置かれた小荷物のように

ところで、不在とは他者についてのみ言えることなのだ。出発するのは相手の方であり、わたしはとどまる。あの人はたえず出発し、旅立とうとしている。本来が移動するもの、逃げ去るものなのだ。これとは逆に、わたしは、恋をしているわたしは、本来が引きこ…

モーム『世界の十大小説』岩波新書

古本屋で購入。上下300円。1958年に1刷、1968年に11刷が出ている。 最初に、飛ばし読みの話が出てくる。 長編小説は全てを論じることができない。論じるのは、長大なテクストのごく一部。そこを通して、しかし、テクストのすべてが見えてくるはずなのだ。

小説すばる

メタバースを特集。 メタバースの世界そのものは、ひょっとすると、かなり古典的な物語世界なのかもしれない。主人公は私!

100夜居続けたら

昔、中国のある高官が歌姫に恋をした。「わたしの部屋の窓の下で、床几にすわって百夜お待ちくだされば、あなたのものになりましょう」、女はそう言った。九十九日目の夜、くだんの高官は立ち上がり、床几をこわきに立ち去ってしまった。 (バルト『恋愛のデ…

善はどんなことがあっても暴力をふるうべきではない、と・・・

Michel Eltchaninoff という哲学者の "In Putins Kopf"(プーチンの頭)という本が紹介されていた。大統領に就任した当初、 プーチンの愛読書は、カントだった。ドイツ=ロシア(ケーニヒスベルク=カリングラード)の平和の哲学者。しかし、遅くとも2012年…

そのとき主体の恋愛全体が言葉の探求のようなものとして立ち現れるのだ

私が素描しようとしている肯定の(能動の)方法は、恋愛主体にとって、お返しに愛してもらおう、そのことを知ろう、そのことを確信しようなどという必要性から発しているわけではない。そうではなく、少なくとも一度は、自分自身のものと同じぐらい断定的で…

なぜ

『恋愛のディスクール・断章』は、1980年に翻訳が出ている。みすず書房の上品な表紙から想像した以上に、わけの分からないテクストだった。読みかけては放り出し、しかしまた、なんだか気になって読み始める、という読書が続いた。いつの間にか書架の下の方…