あるいはジョッキ一杯の葡萄酒や美女を所望するといった

中世の写本制作は、教会関係者、学生や書記官の副業だっただけではない。債務者監獄の囚人もこの作業に携わっていた。私用のために本を作成する蔵書家もいた。写本の最後には、たんに、explicit と宣言するだけではなく、さまざまな署名が書き込まれているという。

中世写本の奥付で思わず頬がゆるむのは、写字生がしばしば本の長さに愚痴をこぼしたり、永遠の命を願ったり、あるいはジョッキ一杯の葡萄酒や美女を所望するといった決まり文句に託して、仕事を成し遂げた喜びを意気揚々と表明している箇所である。
(クリストファー・デ・ハメル 立石光子訳『中世の写本ができるまで』116)

 

こういうところに共感する人々は、いつの世にも、どの世界にも存在する。スイスのベネディクト会修道士は、今も、中世写本の書名入り奥付をまとめた索引を出版しているという。