少年探偵団

明智小五郎事件簿 X

 そいつは全身、墨をぬったような、おそろしくまっ黒なやつだということでした。「黒い魔物」のうわさは、もう、東京中にひろがっていましたけれど、ふしぎにも、はっきり、そいつの正体をみきわめた人は、だれもありませんでした。
 そいつは、暗やみの中へしか姿をあらわしませんので、何かしら、やみの中に、やみと同じ色のものが、もやもやと、うごめいていることはわかっても、それがどんな男であるか、あるいは女であるか、おとななのか子どもなのかさえ、はっきりとはわからないのだということです。

怪人二十面相』と同じ『少年倶楽部』に連載。
1937年発表というから、シリーズ第二弾ということになる。
 さすが乱歩と言うべきか、少年向けの文体で、あるいは、この文体だからありうる、不気味な世界を実現している。