大どろぼうホッツェンプロッツ

作:オトフリート・プロイスラー
訳:中村浩三

我が人生で、ドイツ文学との出会いと言えば、ホッツェンプロッツであって、白雪姫やら、赤ずきんちゃんやらでは断じてない、とどこかで大言壮語したものだが、改めて読み直してみれば、なんともメルヘンチックなお話しなのだった。
ストーリーはほとんど忘れていた。
記憶に残っているのは、なんといっても表紙の絵である。大泥棒は、実は、いい人なのだ、と思い込んでいたのも、この絵を見てのことだったにちがいない。
大魔法使いペトロジリウス=ツワッケルマンのことは全然記憶にないし、この魔法使いがブクステフーデにでかけることも、カスパールが、シュナッケルマンとか、ツェプロディリウス=ワッケルツァーンとか、ツェプロディリウスシュペクトロフィリウス=ツァケルシュワンとか、わざと間違えてみせる話も記憶にない。
しかし、物語を読んでいなかったわけではないようなのだ。光り輝く妖精アマリリスが、宙に浮かんで移動する姿は、助かった!という安心感とともに心の深奥から浮かび上がってくるのだった。