「無力化」Annulation

バルト:恋愛のディスクール

『ウェルテル』の中で、主人公が愛するシャルロッテは「無意味で色あせている」。1975年1月23日講義では、「無力化」Annulation というフィギュールに要約されている。1976年2月26日講義でも、「無力化」が語られているが、そこでは「中毒」Intoxication に関連付けられている。恋愛対象を越えて、恋そのものに恋しているのだ、ということを、「主体が内観によって理解するに至るとき」このフィギュールは「独自性・・・を帯びて現れてくる」。

しかしまた、これが、すでに多くの詩人によって語られていることは、バルトの指摘を待つまでもない。

中毒とは「身体に取り込まれた毒とされる物質。私の身体は、この物質が有する、この潜勢力が有する物となる」。
アディクション(依存):「ローマ法では:債権者が債務者の身柄を取り押さえ自分の物として扱える権利を与える、政務官の命令」。

ところで、「無力化」というとき、恋愛の主体は、対象に(意識しないにせよ)働きかけているはずなのだ。「中毒」は、主体自身の問題で、対象に関わることがない。